多角的な視点からサステナビリティを議論する各セッション
セッション1:HOSOO×ソニーCSLによる「KYOTO SILK HUB」構想
最初のセッションでは、京都工芸繊維大学教授の水野大二郎氏がファシリテーターを務め、HOSOO COLLECTIVEとソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)による「KYOTO SILK HUB」構想が語られました。与謝野町に約4万2000平方メートルの拠点を整備し、養蚕から製糸までをAIやロボティクスで再設計する挑戦です。HOSOO COLLECTIVE社長の細尾真孝氏は、江戸期の着物から着想を得て、「素材の質が別次元の美を生んでいた」と述べ、均一性中心の評価軸を超える“ラグジュアリーシルクの再定義”を掲げました。ソニーCSL社長の北野宏明氏は、「日本の勝ち筋は“お金で買えない価値”をテクノロジーで高めること」と指摘し、伝統、テロワール、テクノロジーを掛け合わせ、30年単位で世界の研究拠点を目指す構想を示しました。最終的な基準は「美しいかどうか」にあるとの認識で三者は一致しました。

セッション2:「ダブレット」井野将之デザイナーが語る革新素材の昇華
セッション2では、「ダブレット」の井野将之デザイナーがパリからオンラインで参加し、革新素材をファッションへ昇華させる方法について語りました。同ブランドの2026-27年秋冬コレクションのテーマは「空気」で、二酸化炭素由来の新繊維「ゼフィール」を採用。「糸に触れた瞬間、本当に空気からできていると感じた。その驚きが出発点」と振り返りました。井野デザイナーは、環境配慮という“正しさ”以上に、素材開発者の情熱を重視し、制限や未知のハードルを楽しみながら素材を物語へと翻訳する力がデザイナーの役割だと示しました。
セッション3:CFCLとヴェジャが示すファッションとサステナビリティの判断基準
セッション3では、CFCL代表兼クリエイティブ・ディレクターの高橋悠介氏と、ヴェジャ(VEJA)APAC統括責任者のアルトー・フルノワ氏が登壇し、ファッションとサステナビリティの判断基準について語りました。高橋氏は、「CFCL」が認証素材の使用率を87.8%まで高め、2030年に100%を目指す背景を説明し、「まずは分かりやすい基準を持つことが重要」としつつも、「認証だけでは見えない現実がある」と語りました。「ヴェジャ」は、アマゾン産天然ゴムやレザーを原材料段階まで遡り直接調達しており、フルノワ氏は「トレーサビリティとは、現場との関係性だ」と強調しました。両者はリペアやリセールにも取り組む一方で、「これが唯一の正解ではない」と口をそろえ、自らの基準で責任を引き受ける姿勢の重要性を示しました。
セッション4:ケリング・ジェネレーション・アワードとイノベーションの可能性
セッション4では、ケリング サステナビリティ プログラム ディレクターのジェラルディン・ヴァレジョ氏と、ファーメンステーション社長の酒井里奈氏が登壇し、ケリング・ジェネレーション・アワードの意義が語られました。ジェラルディン・ディレクターは「イノベーションとサステナビリティは戦略の中核。世界中のスタートアップに業界へのアクセスを提供することが目的」と説明。アワードは単なる表彰ではなく、ブートキャンプやフランスでのビジネスミーティングを含む“市場接続のプロセス”だと強調しました。酒井社長は「受賞はライフタイムイベント」と振り返り、南仏での視察などを通じ「ナラティブと共に価値を届ける重要性を実感した」と語りました。両者は「次のラグジュアリーはサステナビリティと生物多様性が前提」との見方で一致し、スタートアップの機動力とラグジュアリーの発信力が補完し合うことで、資源の見方そのものを変えていく可能性が示されました。
“体感するサステナビリティ”を提示したホワイエ展示
会場外のホワイエでは、サステナビリティの理念を具体的に落とし込んだ展示が並び、来場者がセッションの内容を身体感覚で確かめる空間が広がりました。
船場(SEMBA)は、商業施設やオフィス、空港、病院、学校など、多様な空間づくりの現場で推進してきたエシカルデザインの取り組みを紹介しました。特に注目を集めたのは、空間施工において発生する廃材を極力出さない設計思想と、使用後の資材を再生・再活用する循環型の仕組みです。企画・設計段階から廃棄を減らす発想への転換は、ファッション産業とも共鳴する内容でした。空間そのものをメディアと捉え、「未来にやさしい空間」をどう社会実装するかを来場者に問いかけました。

豊田通商は、繊維リサイクル事業「PATCH WORKS®(パッチワークス)」から、代表的なプロジェクトのひとつである再生ナイロン素材ブランド「NetPlus®」を展示しました。廃漁網100%を原料とする同素材は、海洋プラスチック問題の解決に資する取り組みとして国際的にも注目されています。ブースでは、日本国内で回収から再生までを行う地産地消モデルの事例も紹介され、資源循環を“遠い理想”ではなく“具体的なサプライチェーン”として可視化し、本サミットのテーマを体現する展示となりました。

セッション2に登壇した「ダブレット」のブースでは、キノコの菌糸体由来の人工レザーや卵殻膜由来素材などを用いた歴代コレクションを、原料や素材サンプルとともに展示しました。革新的素材をユーモアへと昇華するデザインの背景を、視覚的・触覚的に体感できる構成となりました。また、ホワイエのマネキンには彩ユニオンの「カミ トカシ」が採用されました。これは石油由来素材を一切使用せず、紙と木材、スチールのみで実用強度を実現し、使用後は分解してリサイクルやリユースが可能な設計です。展示空間そのものもまた、循環思想の実験場となっていました。

その他、協賛企業のネスプレッソやアイスランディック・グレイシャルなども展示を行い、来場者にサステナビリティへの取り組みを紹介しました。


来場者の声が示した「判断の場」としての価値
今回の来場者は、ファッション関連が最多であるものの、商社、製造、小売、広告、美容、学生などの参加も厚く、業界内イベントにとどまらない構造横断型の構成となりました。事後アンケートでは、「サステナビリティを“正しさ”ではなく“基準”として捉え直せた」「素材や産地の話を抽象論ではなく現場の話として聞けた」「異業種の参加者との対話で自社の立ち位置が見えた」といった声が寄せられています。来場者の多くが「具体的な判断軸」や「次のアクション」を求めて来場していたことがうかがえます。理念の共有に留まらず、アクションのための判断の場として機能したことが、今回のサミットの成果といえるでしょう。
イベントの様子をまとめたハイライトムービーも公開されています。
開催概要
イベント名:WWDJAPAN サステナビリティ・サミット2026
開催日時:2026年1月28日(水)15:00~20:00
会場:東京ポートシティ竹芝 ポートホール
主催・企画:WWDJAPAN(株式会社INFASパブリケーションズ)


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